NICOとスピッツと私と

NICOが先か、Spitzが先か。

Future Soundtrackとは、時を超えてプロローグとエピローグを繰り返す、実験的なアルバムである。

 

Future Soundtrack(初回限定盤)(DVD付)

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勢いで書いたので、時の流れとはなんなのか。きみの正体はなんなのか。を解明するようなものにはなってないけど。あくまで私のファーストインプレッションだけを落とし込んだ雑文。

「きみ」が「愛する人」だけでなく、もっと多くの意味を持っていることは分かっている。

でも「愛する人」で話を進めないとたった一回通して聞くという事が困難を極めそうだったのでそこに絞りました。

 

 

 

 

 

Future Dancer

ジュワッと無音の奥から湧き上がってくる、近未来感あるイントロ。

宇宙船のライトが点滅しているかのようなSF感の上で唯一“生”を感じさせるボーカル・ホリエアツシの声。過去と未来の間なのか、それが果たして今を指すのか。軸を捉えることに気を取られていると、このスローモーションの世界に置いて行かれそう。サビ前、ホリエさんの声と交わるOJのギターは、サーチライトの様に世界を照らすけど、どこか物悲しくて。20年という時間の上に立った四人の後ろ姿が見えるような。それぞれの衣服が風に靡いている。表情は見えてこないが、きっと笑っているのだろう。いや、笑い飛ばそうとしているのかもしれない。このアルバムと、未来への幕開けに。

―――踊り明かそう 訪れる明日へ

 

タイムリープ

しかし、過去には戻れない、と歌ったはずの1曲目に続いて「タイムリープ」とは。踊り明かしていた(Future Dancer)はずなのに、夜眠って朝目覚めるだけの平凡な世界に突然放り込まれて呆然としてしまったのは私だけでしょうか。同じ瞬間は二度と来ないことを悟ったばっかりじゃないかホリエアツシ。どうした。ここで歌いだしのメロディを思い出す。ひなっちのベースがすごいから、という前評判。なるほど。眠気を覚ますように叩かれて、アンニュイな世界に沈みかけた瞳に光を戻してくれる。新しい街には~の所のコーラスが美しい。サビのドラムが強く鳴れば鳴る程、自問自答が加速するような。変えられない、繰り返すだけ。そして私はハッとする。Future Dancerのあの物悲しさの正体と、曲順の効果を思い知って。

―――ずっと前から知っていたのに

       あのとき気づけなかったんだ

 

After Season

シンペイさんのドラムが先導する疾走感がそうさせるのか、二人時代のような曲だ。ひなっちもOJも確かにそこにいるのに、ホリエさんとシンペイさんが向かい合って演奏している映像が浮かぶ。決して二人の友情がどうみたいな、ファン受けを狙った曲だとかそういうことが言いたいわけじゃない。でも、私は二人にしか分からない時期(season)を思ってしまったのです。最後の「season after season」を後ろで繰り返しているところなんて、二人が笑っているようにさえ思えるのです。これも一つの過去であり、また未来でもありますよね。

―――不確かな希望は言葉にできないまま

          散って 飛んで 行くんだ

 

 

Boy Friend

COLD DISCの流れを汲んだポップさ、「拒否してきたけどやっぱり俺たちはJ-POPだ」とゴッチとの対談での言葉が反芻してくるような歌詞だと思う。だけど「暗い」ではなくて「昏い」を使ってニュアンスを出してくるところが一筋縄ではいかせないホリエさんのインテリジェンスなところだと思っている。このアルバムはここまでの間ずっと「きみ」と「ぼく」との間には越えられないし変えられない時間(時空?)の問題があったけれど初めてここでそれが崩れる。そしてまた新しく意味を持たせる。せっかく清々しく歩き出せそうなのに、酔ったことを理由にしようとしている所が愛くるしくて憎いです。

―――めずらしく酔った帰り道は

    重い方の荷物をぼくが持ってあげるから

          空いた手をそっと繋いで歩こう

 

灯り

ハウステンボスに行きたくなりすぎるので割愛。

(嘘です。このアルバム内で世界観として逸脱はしていないけれど番外編だと思うので)

 

もうすぐきみの名前を呼ぶ

一番気になっていた曲です。ホリエアツシは「名前」というワードを多用するから。恐らく、彼にとって「名前」を知ったり、呼んだりすることは「愛してる」を言うに等しいことなのだと思う。だとしたらこんな堂々としたタイトル、どんなラブソングなのだろうかと。最初に聞いた感触は、とっても混乱を覚えた。「時の流れの外にいるきみ」とは?さっきやっと手繋いだじゃないか。でも落ち着いて聞いてみるとわかりました。一番では「昨日までとは違う1日」を、最後は「昨日までとは違う毎日」を歌っている。「きみ」と「ぼく」はちゃんと一緒にいた。よかった、前に進んでいるようです。ライブで聞くときはきっと、ドラムの音がより大きく聞こえるだろうから、その辺の違いが楽しみ。

―――美しい言葉を見つけ出すだろう

 

The Future Is Now

ここにきてやっと、ちぐはぐに現れてループしては「ぼく」を悩ませていた過去・現在・未来が正しく美しい時間軸に並ぶんじゃないかと思う。どうしようもできない概念に苦しんだけれど、理解し受け入れて初めて「ぼく」の世界に作用する。「エピローグに書き残した文が次への前書きになる」って歌詞凄くないですか?後書きがプロローグになるって?それって「過去も変えてく未来」じゃないですか?ここに至るまでの6曲がもしこれまでのストレイテナーのエピローグで、7曲目を挟んだ瞬間にこれからのストレイテナーの「プロローグ」になっているとしたら、それはこのアルバムの象徴的瞬間。全体に仕掛けられた過去・現在・未来は一年後も十年後も褪せることなく繰り返すのだ。なんてことだろう。変わらない名作はあるが、これは変化に寄り添っていく名作だ。実験的な要素もあるかもしれないけれど、すごいエネルギーを持っていると思う。興奮が収まらないです。

―――過去を変えてく未来を 

      いつかきっと分かるんだ

            その未来は今なんだ

 

Superman Song

難しい話は一旦終わりにして、楽しもう。概念で凝り固まった頭と体と心を解すやり方は人それぞれ。そんな開放感とコンパクトなサイズ感にまとまったいい曲。何も考えなくていい。今はこのエピローグでありプロローグである瞬間を楽しもう。

―――Singing something stupid.

         Because we are young tonight.

 

Last Stargazer

天文学的な人を指すよりも、夢想家的なニュアンスなのかな。僕の戯言を聞いておくれよ、という具合に。忘れてはならないのは、「Last」だという事。やっと「きみ」との時間を手に入れた。もう、きみの名前だって呼べるし、一緒に踊れるし、何より同じ時の上に立っている。さっきは「君のスーパーマンになりたい」なんて言っていたけれど。最後の戯言を終えたら、後は「I swear I’ll love you forever and ever」なのでしょう。

―――Every moment seems like an eternity.

            Just wanna have you here.

 

月に読む手紙

「同じ時が流れてるのさ」と歌っているので、ここで立ちはだかるのは物理的な距離。それを埋められるのが言葉や思いだとしたら、と考えさせられる。なんせもう「叫びたい」らしいので。ただ「さよなら いつか分かるときがくる」がどこに掛かってるかを解釈しきれなくなる。曲単体でみればそんなに引っかからないんだけど。ただ私としては、丸く収まりかけたところに少しの不穏さを残すのもアリ。もしかしたら結局、すべてを理解して、手に入れても、また「タイムリープ」してしまう運命なのかもしれないし。でも今が愛おしければいいと思います。

―――それでもいつか傷は癒えるだろう

               忘れてもいいよ

 

Our Land

物語の輪郭を描き出すベースラインがエロい。あえて歌詞も少ないんだろうけど、言葉足らずであればあるほど、OJがそれを補うように本領を発揮していてバランスが絶妙。一瞬で終わったように思ったが、意外と4分00秒もある。完全に聞き手に物語を委ねているかと思うほどの余白。やはり「きみ」と「ぼく」が同じ時を生きられるのには制約があるのだろうか。「きっと何処かで待ってて」が切ない。「きみ」と「ぼく」にとって「未来」は、Our Landにたどり着くことなのかもしれないけれど、たどり着けないから互いをより愛おしく思うのかもしれません。

―――アイシテ ウマレテ ハジメテ カナシイ

 

 

 

 

Future Soundtrackとは、時を超えてプロローグとエピローグを繰り返す、実験的なアルバムではないかと思う。一度再生ボタンを押して、このアルバムを知った瞬間から、必ず来る未来へ作用し続けるサウンドトラックなのだと思います。

 

以上。